第20回研究大会開催のお知らせ

e-Learning教育学会 第20回研究大会を下記のとおり開催しました。

オンライン開催
参加費 会員・非会員とも無料

【大会プログラム概要】
12:00 開場
12:10-13:10 e-Learning教育学会 会員総会(非会員の方はご参加いただけません)
13:10-13:15 開会行事
13:15-13:45 研究発表A/B
A: 『明示的文法指導のオンライン実施による効果 ー英語動詞の誤用を対象としてー』奥田阿子・隈上麻衣(長崎大学)
B: 『オンライン授業における直接教授法の実践 ―SFC中国語教育の新たな取り組み―』華金玲・鄭浩瀾(慶應義塾大学)
13:50-14:20 研究発表C/D
C: 『学術情報リテラシー科目のオンラインコース設計 ―認知科学を教育・学習戦略に応用するための試み―』尹智鉉(中央大学)
D: 『簡易e-Learning 教材におけるExcel関数式およびワークシートの修正』神谷健一(大阪工業大学)
14:20-14:30 休憩
14:30-15:00 研究発表E/F
E: 『初級中国語教育におけるVRの可能性 ーMozill Hubsの活用を通してー』渡邉ゆきこ(沖縄大学)
F: 『世界17か国に散在する学生へのオンデマンド型日本語予備教育 ーeラーニング教材JPLANG中級レベルを活用してー』藤村知子(東京外国語大学)
15:00-16:20 ワークショップ『Book CreatorとThinglinkで教材作り』大前智美・岩居弘樹(大阪大学)
16:20-16:30 休憩
16:30-17:50 基調講演『メタバース時代のe-Learning教育』矢野浩二朗(大阪工業大学)
17:50-17:55 閉会行事

【研究発表要旨】
A: 『明示的文法指導のオンライン実施による効果 ー英語動詞の誤用を対象としてー』奥田阿子・隈上麻衣(長崎大学)
本研究は、日本語を母語とする英語学習者(Japanese Learners of English, JLEs)に対する明示的文法指導の効果を検証することを目的としている。子どもの言語獲得では誤り訂正(否定証拠)が効かないことが知られているが、第二言語習得においては、学習者の年齢が上がるのに相関し認知能力も高くなるため、誤用に対する指摘や訂正を理解することができ、その理解をもとに知識状態を変化させることが可能であると考えられる。明示的文法指導の効果の検証は、近年、第二言語習得研究の主要な課題の一つであるが、どのような指導方法・指導内容がより効果が高いかについては意見の一致をみておらず、更なる検証が望まれる。
JLEsの典型的な誤用として、自動詞文の受動化や目的語付加、他動詞文の目的語脱落を許容・産出することが知られている(Hirakawa 1995, Zobl 1989)。このような誤用が起こる可能性のひとつとして、動詞の分類や特徴に関する体系的な指導が十分に実施されていないことがあげられる。そこで、隈上・奥田(to appear)は、日本人大学生を対象とし、動詞に関する明示的な文法指導を、特に動詞の分類・特徴に焦点を当て実施した。また、その効果を検証するため、指導の前後で文法性判断課題を用いた事前テスト・事後テストを行った。習熟度(上位群・下位群)に関わらず、事後テストにおいて点数の上昇が見られたことから、上述のような誤用を排除するためには、明示的な文法指導が有効であると考えられる。
本研究では、隈上・奥田(to appear)の行った対面授業をオンラインの形式で実施し、その教育効果について報告する。とりわけ、対面授業で実施された確認テストとオンライン授業での確認テストの結果を比較し、オンライン授業での明示的な文法指導の効果について議論する。

B: 『オンライン授業における直接教授法の実践 ―SFC中国語教育の新たな取り組み―』華金玲・鄭浩瀾(慶應義塾大学)
慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)中国語研究室は、キャンパスが創設された1990年以来、中国語初習者を対象とする授業において直接教授法を実践し、学生との相互的なコミュニケーションを重視する授業を実施してきた。中国語の直接教授法とは、簡単にいえば日本語を一切使わずに中国語を教授する方法であり、これまで主に教室内という限られた空間の中で、教員が表情や身振り、道具などを通して中国語文法の意味を学生に理解してもらうように展開されてきた。これは教室内という近い距離でのやり取りだからこそ、意思疎通や相互伝達を可能にすることができたといえる。
しかし、対面授業からオンライン授業への移行により、教室というリアルな空間の共有とその場における対面的コミュニケーションが失われるようになった。このような変化に対応するために、新しい教育法を模索する必要があった。 そこで私たちが考案したのがバーチャルな空間を用いた直接教授法である。オンラインビデオ通話スペース「Gather.Town」でバーチャルなSFCキャンパスを構築し、教員と学生がバーチャルSFCで移動しながらそこにあるものを使って中国語で説明し、学生に理解させながら、会話文を練習させるように実践している。中国語インテンシブ授業のクラス内だけでなく、創発的な学習支援としてオンライン自習室と学生が自由に交流する中国語サロンにおいても直接法を実践し、学生から好評を得られている。
「バーチャルSFC」における直接法の実践は、単調になりがちなオンライン授業に活気をもたらし、生き生きとした中国語授業を実現することによって、学生の中国語学習意欲の向上につながる。また、地理・空間的制約から解放されることにより、教室内に限定されていた授業コンテンツを一層充実化させることができる。その意味では、オンライン授業に限らず、対面授業にも使用意義が十分にあると思われる。
キーワード:直接教授法 ICT教育 実践 バーチャルSFC Gather Town

C: 『学術情報リテラシー科目のオンラインコース設計 ―認知科学を教育・学習戦略に応用するための試み―』尹智鉉(中央大学)
パンデミック状況下のニューノーマル時代を迎え、日本国内外の教育分野においても新しい生活様式や働き方への対応が喫緊の課題となっている。日本国内でも、COVID-19の発生により、学びを継続・保障するための方法として遠隔教育やオンライン授業が急速に展開された。しかし、今後は単なるパンデミック状況下における付け焼刃式の対応策としてではなく、より複眼的な視座からオンライン教育の可能性および位置づけを捉え直し、質的向上を図っていく必要がある。
本研究では、日本国内の私立大学で新規開講された学術情報リテラシー科目を取り上げる。本科目のねらいは、大学で学ぶ1-2年生を対象に、次の三つのスキルを実践的かつ総合的に学ぶことである。具体的には、(1)自分が立てた問いに対して必要な資料や文献を適切に選び、その内容を正確に理解できるスキル、(2)そこで得た知見に基づいて自分と他者の考えを整理し、さらに思考を深め、自分の意見を確立できるスキル、(3)その内容を他者と共有できるよう、きちんとした文章として書きあげるスキルである。本科目は、2021年度後期に開講され、主にWeb会議システムを用いた同期型コースとして設計された。非同期の部分としては、大学規定のLMSを使い、資料配布・課題提出・個別フィードバック・掲示板・オンラインテストの機能を活用した。
発表では、学習者がいかにうまく新しい教材から学び、記憶するかに焦点をあてた認知科学の先行研究を概観し、オンラインコースの設計者・授業担当者としての振り返りを報告する。教授内容の整理と提示、学生のスキルアップの支援、教授法と評価法の決定、社会的相互作用の組み込み、学生へのフィードバックの提供等について考察し、次年度以降のコース設計に向け、認知科学の普遍的な原則を教育・学習戦略に応用するための示唆を得ることを本研究の目的とする。

D: 『簡易e-Learning 教材におけるExcel関数式およびワークシートの修正』神谷健一(大阪工業大学)
本研究は発表者が中心となって開発してきた簡易e-Learning教材(https://sites.google.com/view/voaleaningenglish/)の2021年度の授業での利用結果を報告するものである。とりわけ中心的な位置づけとなっている自動採点機能付きのExcelワークシートについて、運用面、様々な問題点が残っていることが判明した。 問題点の1つは関数式の不具合により出題ミスとなる可能性があることであった。
具体的には半角スペースの数から語数を拾い、その語数指示に従って解答欄に入力することになるが、非表示列に正解を入力する際に半角スペースを末尾に誤って追加してしまい、これにより語数指示が1語多く表示されたことである。既に関数式の中に除去する処理を組み込んでいるが、何らかの事情で正常に動作していなかった事例があった。本発表ではこの関数式の修正案を提示する。 また、正解を判定する式において、フォントによっては見た目が同じでも文字コードが異なることがある2種類の文字(アポストロフィーとダブルクォーテーション)があり、想定していない方の文字コードの方で入力すると誤答と判定されてしまう。どのような条件下で想定していない文字コードが入力できるかについては分かっていないが、これらの違いは自動採点に組み込んでおく必要がある。
ただしこの点については不正受験防止に役立てるという方法も考えられる。つまり意図的にこれらを模範解答の中に埋め込んでおくというわけである。もとよりオンライン授業においては性善説、すなわち受験者は不正行為を行わないという想定のもとで実施しているが、実際には発表者の観察の範囲でもかなりの不正受験事案があったようである。しかし全てが正解になっているファイルを学生間で共有されてしまうと、もはや見抜くことはできない。これは簡易e-Learningの限界である。

E: 『初級中国語教育におけるVRの可能性 ーMozill Hubsの活用を通してー』渡邉ゆきこ(沖縄大学)
近年注目されているVR技術は、教室という限られた空間を拡張し、居ながらにして体験学習を可能にする技術と捉えることも可能である。事実、海外ではVRの語学教育に対する有効性を報告する研究成果も発表されている。特にコロナ禍でリモート授業への転換を余儀なくされ、学習者間の関係構築が難しくなった状況下では、VRがもたらす「sense of co-presence(共存感)」がより大きな学習効果を生むとも予想される。
筆者はこれらの知見に基づき、2021年度の新学期からソーシャルVRプラットフォーム・Mozilla HubsをPCベースで活用し、3D編集ソフト・Spokeを使用してさまざまなVR教材を作成して、対面授業と遠隔授業を問わず初級中国語の授業でその効果的な活用を試み続けてきた。
主な用途としては
① 学生同士で会話練習を行ったり、中国語による指示を聞き取って動作を行う体験学習を行う空間としての使用。
② 3Dオブジェクトを使った簡単な作業を行い、表現が使用される状況を疑似体験することを通し、表現を体得したり、より深く文意を理解する手段としての使用。
③ 学修成果を展示し可視化を図るとともに、学生が相互に学び合う空間としての使用。
④ 事前学習のための新しい教材提示方法としての使用。
以上4つが挙げられる。
本発表では、この試みの詳細について報告するとともに、前期と後期に行ったアンケート調査から、学生のVRに対する受容の状況や学習効果への評価を通して、その効果と問題点を検証する。また、語学教育へのVR技術の活用の可能性についても考察する。

F: 『世界17か国に散在する学生へのオンデマンド型日本語予備教育 ーeラーニング教材JPLANG中級レベルを活用してー』藤村知子(東京外国語大学)
東京外国語大学留学生日本語教育センターは、文部科学省国費学部留学生の日本語予備教育を1970年より担当し、国立大学の学部に進学して、学部の授業が理解でき、自分の考えが伝えられるような日本語力を1年間で習得させてきた。 本発表では、2020年度の反省を踏まえて行った2021年度のオンデマンド型日本語予備教育の実践について、中級開始コース(JLPT N4修了程度)におけるチームティーチングの状況とオンデマンド型の問題点を報告する。
発表者が担当したのは、中級開始コースの中でも、大学入学後、日本語で書かれた文献を読み、レポートや試験答案を書いて単位を修得できるような日本語力の基礎を養成する「総合日本語」である。 この授業では、学習者は、JPLANG(http://jplang.tufs.ac.jp)の中級コンテンツのうち、「文型」「語彙(漢字を含む)」「本文(読解)」を各自学習し、理解確認のための課題4種―「短文作成問題」「文法問題」「内容理解確認問題」「漢字クイズ」―をJPLANGのLMSに提出する。受け取った教員は、「短文作成問題」「文法問題」「内容理解確認問題」の回答をcsvファイルに落とし、それをWordに読み込ませ、Wordのコメント機能を用いて添削し、不正解である理由と正解を記して保存したファイルを、Moodle経由で返却する、また、漢字については、「手で書けない」学習者が多いため、クイズの答えを手で書いたものを画像ファイルでJPLANGに提出させ、添削してPDFファイルに保存し、Moodle経由で返却する、というサイクルで学習を進めた。 チームティーチングの強みを生かしてきめ細かな添削を行い、学習者からも高い評価が得られたが、オンデマンド型では、日本語予備教育に要求される正確で伝わりやすい日本語が定着するには至らず、21年度は、その期間を来日後の対面授業の「反転」と捉えて、授業計画を立てた。

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