e-Learning教育学会 第3回大会

開催日時 2006年10月21日(土)13:00~16:55
場所 大阪大学 サイバーメディアセンター
豊中教育研究棟 4階
CALL第2教室 アクセス
懇親会 キャンパス内のレストランにて 17:30~19:30

大会プログラム

12:30- 受付 (CALL第2教室前)
前半司会: 小口 一郎 (大阪大学)
13:00-13:05 開会のあいさつ (学会会長 細谷 行輝)
13:05-13:10 開催校のあいさつ (大阪大学サイバーメディアセンター長 下條 真司)
13:10-13:35 研究発表1 松村保寿、徳本浩子 (名古屋外国語大学)
「e-teaching ソフトウェア "My Server"の開発について」
13:40-14:05 研究発表2 国吉ニルソン(大阪大学)
「大阪大学大学院工学研究科を対象とした工学英語について」
14:10-14:35 研究発表3 宍戸真(日本獣医生命科学大学)
「Course ware を利用した E-Learning -Effective Reading による英文読解指導-」
後半司会: 神谷 健一 (大阪工業大学)
14:45-15:00 研究発表4 竹蓋順子(大阪大学)
「英語リスニング力養成用Web教材 Step Up e-Listening の開発(外国語CUプロジェクト)」
15:05-15:20 研究発表5 杉浦謙介(東北大学)、Andreas Kasjan(九州大学)
「外国語CUプロジェクトにおけるドイツ語教材の開発」
15:25-15:40 研究発表6 井上美穂(上智大学),岩根久(大阪大学)
「公開フランス語教材の紹介と平成17年度科研成果発表」
15:45-16:00 研究発表7 曺 美庚(九州大学)
「外国語CUプロジェクトにおける韓国語辞書と教材の開発」
16:05-16:10 休憩
16:10-16:50 ワークショップ (WebOCMデモ)
杉浦謙介(東北大学)
*WebOCM[ウエブ・オーシーエム]とは、WEB対応授業支援システムであり、とりわけ、文系の教師の e-Learningの負担を極限にまで軽減するために独自開発されたソフト。教育機関に無料にて公開中。
16:50-16:55 閉会のあいさつ (学会副会長 岩根 久)

 

第3回
e-Learning教育学会 研究発表レジュメ


研究発表 1

e-teaching ソフトウェア “MY Server”の開発について

松村
保寿、徳本
浩子名古屋外国語大学

 本研究発表者の開発によるサーバ・ソフトウェア("MY
Server")の紹介と公開を行います。MY Server
は、基本的には Testing server であり、学校教育でこれまで紙の形で提供されて来たテスト文書をインターネット上で公開するためのサーバ・ソフトウェアです。教員は、これまでWord文書などで書き貯えてきたテスト文書などを、ほぼそのまま(多少の加工は必要です!)online上に搭載して、テストを実行しかつ自動採点を行うということを目的とします。採点結果は、画面上で直接学生に結果(マーキングとスコア)を返す(もちろん、返さないことも可)とともにExcelのデータとしてサーバに保存されます。もちろん、テスト形式以外の、一般の公開文書(Word,
Excel, PowerPoint、PDF文書や 簡単な映像 Videoデータ)を提示することも可能です。しかし、文書やデータの共有ということに関しては、一般にonline 
platform(例:Blackboardや Moodleなど)といわれるインターネット上のソフトウェアと併用するのが望ましいと思われます。


 このサーバ・プログラムの特色は、極めて軽量のサーバ・プログラムであるということでしょう。「軽量」という意味は、特別なサーバOS(Windows
Server2003やLinux/Unixなど)もまたデータベース・プログラム(MS
SQL、OracleやMySQLなど)も一切必要とせず、通常のOS(Windows XPや2000)の上でそのまま走るプログラムであるということです。実際の動作もまた比較的軽快です。加えて、ノート型PCにそのまま搭載することができるので、さまざまなネットワーク環境(「教室」)に持ち込んでPlug
inすれば、そのときどきの環境に応じたサーバとなるのです。すなわち
MY Server はモバイル・サーバでもあるのです(PortabilityとFlexibility)。公的機関に固定的に設置したサーバを常時利用でき、世界のどこからでもアクセスが可能であるという(専従の情報処理専門家が管理、運営を担当しているという人的環境をも含めて)理想的なnetwork環境があらゆる教員に与えられるとは限りません。いや、むしろほとんどの小/中/高等学校、ある種の私立大学の構内LANの常態、あるいは非常勤講師として働いている外国語教員の置かれた現状-しばしば複数の大学/高校を掛け持ちしている-が示す、残念ながら、理想的なネットワーク環境とはとても言えない環境においてこそMY
Server
はその価値を遺憾なく発揮するでしょう(もちろん、このことは
MY Serverが固定的に設置された、通常の意味でのサーバとして機能しないということを意味するものではありませんが...。)


 今回の発表は、このサーバ・ソフトウェア MY Server
の仕様のあらましを紹介することですが、同時にさらに議論を一歩進めて、このようなサーバ・ソフトウェアを利用しながら、大学教育の課程の中で、将来の教員が
online serverを駆使してコース運営やサーバ管理を経験することを学習すること(本発表者は、このことを
e-learning ではなく、”e-teaching”と呼んでいます)すなわち「e-teachingを大学の教育課程に取り込む)」ことの意義を議論し、問題提起をしたいと考えます。

研究発表 2

大阪大学大学院工学研究科を対象とした工学英語について

国吉 ニルソン(大阪大学

 科学技術の分野が著しいグローバル化プロセスを見せる中、研究者の英語による論文作成および研究成果のプレゼンテーション能力はますます重視されていく傾向がある。特に理工系の専門分野においては、学術界だけでなく産業界も英語によるコミュニケーション能力を重要な側面として人事決定をするようになってきた。


 英語能力開発は緊急の課題として、平成18年度の入学センター試験に初めて英語リスニングが組み込まれるなど、実用的でコミュニケーションを重視する措置が採られているが、専門分野に関わる英語教育については、教育実践として進められているケースはまだ少ない。この大きなニーズに応えるために大阪大学大学院工学研究科が理工系学生の英語能力開発を目的に、平成14(2002)年度より博士前期課程1年次生向けに「工学英語」を開講しているので、ここでその内容を紹介する。
 

 激しい競争の中で、英語論文や研究成果プレゼンテーションのgenre特徴を短期間に獲得する者が勝つ。そこで、「工学英語I」にてEnglish
for Specific Purposes (ESP)の基礎を育てるためにオンライン教材であるNetAcademyの技術英語コースおよび独自に平成15年度に開発した課題提出システム(WRS,
Writing Review System)を使用している。今年度、WRSにシステム改善を施し、自動採点機能を追加した。30種類の課題(週に1回、3種類ずつ、10週間)をとおして学生に英語による科学技術論文における各部分(abstract,
introductionなど)特有movesの分析、動詞活用、動詞と前置詞の組み合わせ、冠詞の使い方などについて学習を課した。学期の最後まで毎週約550名の提出が続き、全履修者の86.5%
が学習を完成し、最終試験を受験した。工学英語開講初年度の平成14年度から最高だった76%
を大きく上回り、WRSの学習効果が向上したと考えられる。

研究発表 3

Course wareを利用したE-Learning
Effective Readingによる英文読解指導-

宍戸 日本獣医生命科学大学

 従来の英語学習用E-Learningソフトの中には、自主学習を中心としているものや補助教材、補習用教材として作られたものが多くみられる。また、その目的のために練習問題も単語や文法を学習することを中心としたドリル形式のものがほとんどで、単調でつまらないばかりか、学習意欲の低い学生にとっては取り組むことが大変苦痛となる懸念があった。さらには、学内サーバーにインストールする形式のものが多く、利用場所が大学内の施設に限定され、学生にとっては不都合であった。

 これらの問題をふまえ、Effective
Reading
は、教科書とコンピュータープログラムが一体化した世界初のBlended教材としてのE-Learning用教材であるばかりでなく、教師が中心となり、学生と一緒に個別学習、一斉学習をバランス良く組み合わせて90分の講義を行うことができるCourse
ware
となっている。インターネットを通じた接続を基本としているので、利用場所を選ばず、ネット接続がある場所であれば、世界中どこからでも利用が可能である。また、Flash
Player
の特性を活かし、視覚的にも楽しみながらさまざまな練習問題に取り組み、英文を速く読み、正確に内容を理解するために必要な能力を養成することが可能となっている。

 今回の発表では、Effective
Reading
の開発経緯、教科書とコンピュータープログラムが一体となったBlended教材としての特徴、内容、講義の展開例などについて紹介するとともに、昨年度および本年度前期に利用した結果に基づき、英文を読む速さの変化などの効果や、利用した学生の感想、反応について報告する。


研究発表 4

英語リスニング力養成用Web教材
Step Up e-Listening の開発

竹蓋 順子大阪大学


 本発表で報告する「Step
Up e-Listening」は、三ラウンド・システムという指導理論に基づいて制作された英語リスニング教材である。三ラウンド・システムとは、認知科学やシステム科学、それに音声科学の知見を学際的、総合的見地から収集し、それらをシステム化して一つの理論にまとめ上げた指導理論であり、これまでに、この指導理論を基盤として制作された教材は数多くある。教材の形態は学習形態に合わせて1~3に示すように多岐に渡っている。

対面授業用 1.印刷テキスト+音声CD
自習用 2.印刷テキスト+音声CD
3.CD-ROM教材
4.インターネット教材

 今回、開発したのは、4番目に挙げたインターネット教材であるが、この場合の短所として「サーバー能力などによりコンテンツに制限が加えられる」、「サーバーが悪意のある攻撃にさらされる危険がある」といったことが挙げられる。そこで、これらの欠点をできるだけカバーすると同時に、「OSに依存しない」、「教材の更新が容易に行える」、「学習履歴の一括管理が容易に行える」といったインターネット教材の長所を活かし、学習者および教師にとって使い勝手の良い、効果的な教材を開発することを目的として本プロジェクトが開始された。

 発表では、Step Up
e-Listeningの特徴について解説するとともに、学習者のモチベーションを維持するために施された施策についても触れたい。


本プロジェクトは、国立七大学外国語CU委員会で作成したコンテンツ開発の指針に基づき、平成16-17年度科学研究費補助金「国立大学外国語サイバー・ユニバーシティ用コンテンツ開発研究」の補助金を受けて遂行されたものである。



研究発表 5

外国語CUプロジェクトのおけるドイツ語教材の開発

杉浦 謙介東北大学、Andreas Kasjan(九州大学)

 外国語CUプロジェクトのドイツ語教材「CALLドイツ語」は、文法の部とビデオスキットの部に分けられる。

  文法の部は18課からなり、各課で冠詞や現在完了や接続法などの文法項目をひとつずつ学んでいく。それぞれの課は、文法解説、練習、テストの3つの部分から構成されている。文法解説の部分では、文法説明のWebページに、講義音声やフラッシュ動画が関連づけられている。また、新出単語(音声つき)へのリンクも設定されている。練習の部分では、ドイツ語の音声を聞きながら、簡単な練習問題をつぎつぎと解いていく。答えはドイツ語音声のなかにある。答えを見つけることを動機づけにして、ドイツ語音声をたくさん聞くことをねらっている。テストの部分では、その課の最も重要な20の文法事項について20問出題されている。各問題に詳しいコメントがポップアップ形式でついている。文法事項をきちんと理解することをねらっている。

  ビデオスキットの部は16課からなる。それぞれの課は、スキット、説明、応用練習の3つの部分から構成されている。スキットの部分では、「Step1聞く」でスキットを聞き、「Step2理解する」でドイツ語テクストと日本語訳を対照表示させながら理解し、「Step3練習する」でロールプレー形式で対話練習し、「Step4確認する」でドイツ語が正しく聞き取れるか確認する。確認方法としてはディクテーションを念頭においているが、強制はしない。説明の部分では、スキットのドイツ語文について、語彙から語法・文法にいたるまで詳しく説明されている。音声も文ごとに聞くことができる。応用練習の部分では、その課のスキットの重要な文について10の問題(3択問題)が設定されている。

  「CALLドイツ語」は、ドイツ語の基礎を論理的にきちんと理解することとドイツ語の音声を十分に聞くことの両方をめざしている。コンピュータの支援によって、学習がスムースに進むようになっている。



研究発表 6

公開フランス語教材の紹介と平成17年度科研成果発表

井上
美穂(上智大学)、岩根
大阪大学



●公開フランス語教材の紹介(発表前半部)

 発表者が開発した Web
上で実行できるフランス語教材で、現在授業で利用しているものを紹介します。発表時間内に紹介を予定しているものは、数字の聞き取り・動詞の活用練習・文法穴埋め問題などの一部です。ネット上で利用できるだけではなく、ダウンロードしてローカルなコンピュータでも実行できる仕様にしています。発表の際に、具体的な
URL
および利用方法を説明したプリントを配布する予定です。

●平成17年度科研成果発表(発表後半部)

 科学研究費補助金で開発したウェブ教材を紹介します。

(1) 開発の目的: CALL教室等のパソコンを用いた大学の第二外国語で活用できる教材作りを目的としました。ウェブ教材としての特徴を生かせるように、音・静止画・動画・ドラッグ&ドロップの操作・ゲーム性をふんだんにとり入れてあります。

(2)
教材の内容: 開発目的に従い、現在大学が置かれている状態で一番受入れが容易であると考えられる内容編成、即ち伝統文法項目を1課から20課まで配列した内容となりました。ただし、「文法」「会話」「口頭表現」「総合」など、「読解」を除くあらゆる目的別の授業に対応できるように内容を工夫してあります。

(3)
各課の内訳: ある文法項目の簡単な説明と練習問題が出発点となっています。そこから、3つの分野に分かれて進むことができます。ひとつは、当該の文法項目をもっと詳しく学習するセクション。2番目は、当該の文法項目を使った表現のききとり練習を行うセクション。そして3番目は、当該文法項目を使った表現の会話練習です。各課の最後には、ゲームが用意されています。

 研究発表では、以上の内容を、具体例を交えて詳しく解説します。



研究発表 7

外国語CUプロジェクトにおける韓国語辞書と教材の開発

曺 美庚九州大学


①WebOCM用の韓国語辞書の作成:韓国語は、日本語と文法構造が類似しているため、日本の学習者にとっては非常に接近しやすい言語である。しかしながら、いざ学習を始めると、動詞・形容詞の活用語尾の複雑さと膨大な数(約900種類)が学習者を大いに悩ませる。韓国語の活用形の場合、語幹が子音で終わるか母音で終わるかによって接続する活用語尾が変わると共に、不規則活用の数は九つもある。辞書が引けるようになると「一人前」といえる。もっとも、現存するすべての辞書は基本形からしか辞書を引くことができないため、活用形から基本形を見出すことのできない初・中級学習者には辞書を引くことすらままならないことが多い。そこで、あらゆる活用形をクリックするだけで、活用形から基本形が見出せる辞書(WebOCMのワンタッチ辞書)の開発は韓国語教育における最優先課題の一つといえる。WebOCMのワンタッチ辞書にて基本形が抽出できるのであれば、学習者の学習負担が激減するのは勿論で、日本の学習者にとっては日本語並みの運用力を身につけることができよう。

 具体的には、重要基礎語彙3000語中、活用形を持つ動詞・形容詞1147語を中心に辞書を作成する。韓国語の動詞・形容詞の基本形は「語幹+」で形成されるが、1語で語幹を成すものは273語、2語で語幹を成すものは371語、3語で語幹を成すものは472語、4語で語幹を成すものは31語ある。特に「~」の基本形は332個もある。活用の際、語幹までもが変化するケースが多いことと、活用語尾の数が多いことが難点である。これらの問題点については、①基礎語彙の特徴として、「~」形式が約1/3を占めること、②分かち書きの利用、③活用語尾の種類別のグループ化、といった側面に着目することで解決を試みたい。

 ②文化の比較を可能にする教材の開発:日本文化との比較に重点を置きながら韓国文化を紹介する文化チップ形式の教材作成を目指す。日本・中国・韓国は高コンテクスト(high
context)の文化圏として認識されているが、そのことを前提に、三国の文化を比較することで相対的な文化的相違が明らかになってくるはずである。言語と文化は密接な関わりを持っており、文化の理解を伴わない言語の習得では真の異文化コミュニケーションにつながりにくい。そういった観点から、上記のWebOCM用の辞書に加え、文化比較を可能にする教材を開発することで学習効果はさらに高まると考えられる。

 ③「Web韓国語」教材の開発:紙ベースの教材をWeb教材化することを狙いとしている。Web韓国語教材が開発されれば、時間と空間の制約を取り払い、遠隔授業やサイバー授業のための基盤が整うことになる。当該教材を多くの韓国語教育者や学習者にオープンにすることで、これまで問題点として指摘されてきた韓国語教育のばらつきをなくし、韓国語教育の標準化の流れを作り出すことに大いに貢献できるであろう。

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